415日目・・・「戦争論」・・・ボクが「恋人になりソコねた女性」・・・  

naie2008-01-27

 まさに、紺碧の晴天の下にハンドスピ−カーから耳障りな雑音とかすれた声が響きわたっていた。
 ・・・イマヤ、ヴェトナム戦争の最中、日本国家権力は「沖縄返還」を大義名分として日米帝国主義的な更なる固い同盟を結ぼうとしている・・・
 ・・・構内には学生達が結集していた。「沖縄反戦闘争」・・・「ヴェトナム反戦闘争」・・・「安保闘争」・・・
 そんな時代であった。

 彼女は政治経済学部の新聞学科に在籍していた。この学科は彼女の学年で廃止されることになっていた。頭がいいんだ、彼女は。
 「単純なコトがワカッテイナインダ、君は」
 「・・・」
 「チョット、茶店にいって話さない?」
 コヒー代なんかはとっても捻出出来ない貧乏学生のボクは喫茶店なんかでは話しをしたくなかった。コヒー代金よりも古本屋にある「本」が欲しかった。だが、その欲しくて買った「本」も日本語で書かれているのに理解困難なモノだったのだ。
 「コぉヒー・・・ボク、金がないんだ」
 「イイヨ、ワタシがおごってやるから」
 彼女はそう云って右手にぶら下げていた手提げ鞄をそのまま、ヨイッショといって右肩にのせて歩き出した。おごってくれるっていったって、他人の金で飲みたいわけではない。そのくらいの「金」がサイフに無いわけでもない。
 「君、アルバイトはしていないの?」
 「・・・アルバイト、してるよ」
 実際、この東京に大学で勉強するためにきたのか、アルバイトをしにきたのか・・・最初のアルバイトは時給「86円」のプラスチック製品の出来損ないの突起を小刀で切り取る仕事であった。「M工大」に通っていた同郷の友達は工場内の計器をチェックするだけの簡単な仕事で結構高級のアルバイト料金を貰っていた。「おまえが、アルバイトやりたいんなら、オレのやっているアルバイイトを後がまで紹介してやるから」と云われて、喜んでいたのも束の間、「あのアルバイト、弟に譲ったんだ、悪いな」で終わってしまった。「友達」ってなんだろう。確かオヤの血をひく兄弟よりも、なんって歌があった。アウトローの世界のことか・・・。それに、彼女はアルバイトなんかしたことがない、と云っていた。どっこかのお嬢で、家庭は裕福らしい。とにかく、ボクにとっての「学生生活」ってのは「金」のかかるモノであった。
 実際、ボクはワカッテいなっかったし、わからなかった。理解しがたいのはボクの知識の貧困さで、日本語であるのにも拘わらず、その限度を越えた会話にはとってもついていけなかったのだ。すべては・・・コトバの問題じゃあないのか?
 「戦争にもイロイロあるけれど・・・」
 と、彼女はタバコに火をつけてボクの顔に煙りをフーッツと吹きかけて話し出した。格好イイ・・・サマになっていた。そのタバコとマッチ、その点火と唇から吐き出されるケムリ・・・が。
 誰でも常識的な知識で考えれば「汝、人を殺すなかれ」で、「人殺し」である「戦争」には反対なハズだが、「侵略戦争」、「防衛戦争」、「正義の戦争」、「不正義の戦争」、「帝国主義戦争」、「軍隊」、「自衛隊」などが絡まってくるとなると、お手あげである。「正義の戦争」ってあるんだ・・・ソレって何だ?
 「戦争」は煎じ詰めれば「国家間」の殺し合いの出入り、喧嘩・・・「国民」の喧嘩、ではなかった。
 「日本」とはある意味では敗戦後「運のイイ国家」なのかも知れない。「ピンチはチャンス」で、確かに「戦争」には負けたが、民族が壊滅的に滅びたわけではない。しかもその後の「他人の戦争」はチャンスであった。「第一次世界大戦」でぼろ儲け、第二次世界大戦で敗戦したけれど、「朝鮮戦争」、「ヴェトナム戦争」、日本の産業は他人の喧嘩でヌケヌケと儲かったのだ。だが、「日本人」ではない人々が殺しあいをして死んでいっている・・・・「日本人」でない人・・・とはナニ。
 「戦争って、ショウがないんじゃないの。無くなるハズないのよ」
 と、Lは云ったが、「ショウがない」モノなのか・・・。
 「・・・どうして?」
 「核戦争は人類が滅びるけれども、通常兵器の戦争はショウがないのよ」
 「人類が亡びる戦争はダメで、滅びない戦争はイイって、死ぬ人間の数の問題?」
 「当然よ。億の人間が死ぬのと万の人間が死ぬとは違うから」
 「それ、殺すと言うことに限っては同じじゃないのか?」
 「政治と戦争は現実的な数の問題だから。私たちはいま現在、政治のまっただ中に存在しているんだよ。一個人の生死の問題を問題にしているわけじゃないんだ」
 「僕たち学生だろう。それにボクは個人として生きているんだから。それに戦争って、この日本の現実には関係ないように思えるし」
 「世界は連動しているんだよ。そのくらいはワカルよね」
 「・・・モチロン・・・だけれど、なんかピンとこないんだ。確かに世の中オカシイことが多いよ。切実なのはまさに大学側の学費の値上げ。学生生活そのものの経済的な問題はわかるけれど」
 彼女はジーット私の顔を視て、コーヒのカップを口に運んだ。
 「鈍いだよ、アンタは。新聞読んでないのね」
 「新聞って、そんなもの、買う金自体がないから」
 「喫茶店でも、食堂でも、それに図書館でもドコでも置いてあるでしょう。アンタの社会的情報はどっから得ているの?電車に乗れば、荷物棚の上、駅のゴミ箱の中、何処にでも情報源はあるのよ」
 「ゴミ箱って・・・」
 「そうか、アンタは今まで拾った事がないんだ。この資本主義のムダに費やしている残りかすを」
 「・・・」
 「もう少し、違った視点から勉強しなさいよ」
 「・・・」